連載 認知症者・家族をさまざまな観点や立場から支えるコミュニケーションスキル・第5回
支持的精神療法の観点から
繁田 雅弘
1
Masahiro Shigeta
1
1東京慈恵会医科大学精神医学講座
キーワード:
自尊感情
,
自己効力感
,
残存機能
Keyword:
自尊感情
,
自己効力感
,
残存機能
pp.69-73
発行日 2024年1月10日
Published Date 2024/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552203024
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はじめに
周囲からの声かけや態度は,精神療法の理論1)からも,精神症状だけでなく,暮らしぶり(生き方)や療養に効果を及ぼすと考えられる.そして加藤2)は,医師—患者関係が成立すること自体が一種の精神療法として作用するとし,「特定不能の精神療法」と呼んだ.それはうつ病などの精神障害に限ったことではなく認知症の人にもあてはまると考えられる.
記憶障害があれば対話内容を憶えておくことは難しいが,支持的アプローチを継続することで情緒的に安定してくることを臨床で経験している.それは軽度や中等度の障害に限ったことではなく,高度の認知機能障害にもあてはまることも経験している.
不安や恐れなどの感情面の症状は,状況因や環境因の影響が大きく了解可能と言い得る場合が少なくない.また生活上の失敗や周囲の対応に対する人格(人となり)による反応の部分が基盤にあると考えられる.したがってアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)に代表される認知症疾患の人に,精神分析的精神療法や精神力動的精神療法といった精神療法は実際的ではないにしても,簡易精神療法や小精神療法とも呼ばれる比較的短時間の侵襲の少ない支持的精神療法は実行可能性が高いと思われる.言葉をほとんど失った非常に高度のADであっても,励ましや賞賛とともになされる非言語的コミュニケーションが,医師—患者関係の構築に促進的に作用するであろう.
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