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はじめに
昭和53年の夏ごろだったと思うが,厚生省がday careの基準を変更した。そのことに関して苦情を申し上げに行った時に「精神科作業療法は治療だと言うが,精神療法と精神科作業療法と精神科看護は戸口は違うが室は一緒で,第3者から見ると区別がつかない」と言われたことを,この原稿を書く時はじめに思いだした。言って見れば当事者は「治療だ療法だ」と言っているが,他人から見れば全て同じように見えるわけで,始めは私も厚生省でのことに腹がたったが,暫くすると精神科の作業療法に対する世間の認識はそんなものかなと考え,それをどうすれば変えられるかと考えはじめた。ところが昨年金沢大学公開講座と言う,13回のシリーズでテレビ講座を金沢大学医療技術短期大学部の理学療法学科と作業療法学科が担当し,精神科の作業療法についても「心の世界」という題名で1シリーズ担当することになり,そのシナリオの制作打ち合わせをテレビ局の制作スタッフと重ねていくうちに,彼等が「先生,精神科の作業療法というのは何か作らせることで,患者さんの残された能力や行動を,患者さんが自分達で引き出したり,変えたりするための援助をする仕事ですか。先生は活動とか作業とか言いますが,要は何か物を作らせることで,患者さんを治療することですね」と言った。その言葉の中に私は精神科作業療法の本質が含まれていると考えるようになった。第3者というのは意外と率直にものをみる場合があるなと教えられた。それ以後は「作業療法とは」などと肩をはらずに「患者さんにものを作ってもらうことで,治療する仕事です。」と言うことにしている。興味をもった人は「ものを作らせて治療するとは,どんなことを具体的にするんですか」とたいがい質問してくるから,「皆さんはものを作ることを,どのように考えますか」と問うことにしている。すると人は「ものを作ること」の自分なりの考えを言うが,これは人が実際の生活のなかで,ものを作る実体験をしているからで,これが臺の言う「生活経験に学ぶ」ということである。作業について菅は「人間が作業をするのは本能である」と言ったが,私の精神科作業療法の基本的な考え,臨床での治療方法,研究テーマ等にも作業本能論が繋がっている。そこで作業本能論をもとに説明していく。
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