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Ⅰ.まえがき
わが国の脳卒中のリハビリテーション(以下リハビリと略)の歴史においては,比較的早期よりその評価の中に運動負荷テストが取り入れられていた.その主な目的は土肥1)の述べているように,日常生活と同程度の運動負荷によって耐容度を評価し,その成績によって過不足のないリハビリ・プログラムを進めるためであったが,実際には運動療法の安全性のチェックに重点をおいた,いわゆるリスク管理の立場で行われたものが多かったように見受けられる.しかし一方で,医療体育といわれる分野2,3)では,運動負荷テストが片麻痺の全身持久力の評価として取り入れられており,また高木4)らは片麻痺の体力の評価法として椅子からの立ち上がり運動による漸増負荷法を行い,最終的立ち上がり回数,心拍数,酸素消費量の変化から,トレーニング効果の数量的把握が可能であると述べている.著者ら5)は脳卒中患者の様々な運動能力に対応する負荷法を開発する研究の一環として,前歩行期より実施可能な負荷方式の1つに,健手支持による台からの立ち上がり運動(以下単に立ち上がり運動と略す)を取りあげ,その臨床応用について述べている.宮原ら6)は脳卒中片麻痺患者の活動性評価のための運動負荷テストとして,1分間の反復起立動作,平地歩行,ビルの階段昇降などの種目を用いた成績に基づき,片麻痺患者の全身持久力の増強を図ることが可能であることを述べている.また間嶋ら7)は地域社会に復帰を果たした片麻痺の中には,著明な易疲労性のために,社会活動上の不利を来たしているものが少なからずあるとの知見に基づき,40歳代,50歳代の脳卒中片麻痺の体力についての研究を行っている.著者ら8)も踏台昇降テストを用いて片麻痺の全身持久性の評価を試み,本テストの臨床応用に関する問題点について検討を加えている.このように見て来ると,当初リスク管理の手法として出発した運動負荷テストが,体力の向上についての評価法としての役割をもつようになって来たことがわかり,このことは従来どちらかといえば神経生理学的な手法に大きく依存していた分野に,運動生理学的手法が導入されるようになったことを示している.このことは患者・障害者の多様なニーズに対応するためには,アプローチの手法がなるべく豊富であることが望まれる観点からも,歓迎すべき傾向と思われる.本稿ではこの様々な背景をふまえ,与えられたテーマである脳卒中の体力の評価と,維持・向上のためのプログラムに関し,その基礎的諸問題について考察を行ってみたいと思う.
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