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はじめに
心疾患に対して運動負荷が難しいのは運動による治療効果とリスクが表裏一体を成しているからである.心筋梗塞後の組織学的変化を見ると,先ず,閉塞を起こした冠動脈枝によって血液供給を受けていた心筋は壊死を起こす.そして発症後約1週間は心筋壁の一部が壊死を起こしたままの状態である.それ故この時期の梗塞部は心室内圧の上昇に対し最も脆弱であり,心室瘤の形成や心破裂を起こす危険性が高い.その後次第に脈管系や結合組織が発達し,壊死組織が吸収され,コラーゲン線維が蓄積されて瘢痕が形成される.小さな梗塞であれば約4週間,大きな場台でも6~8週間でほぼ十分な強度を有するようになり,12週頃までに瘢痕組織は成熟する7).運動負荷量はこの組織学的変化に沿って決められるべきである.実際には治癒の速度が梗塞部の大きさや場所,循環の状態,年齢等により異なるため,各症例毎に治癒の状態を診断し,運動負荷量を決める.この時期の運動の目的は脱調節(deconditioning effects)をできる限り予防することである.
一方梗塞部が瘢痕化すれば一応十分な強度が保証されたと見なすことが出来る.しかし心臓のポンプ機能は低下しており,それだけ最大有気的パワー(maximal acrobic power),いわゆるphysical fitnessが低下する.また瘢痕部位周囲の心筋は運動時に虚血を起こし易いことは十分考えられる.これらもまた最大運動量を制限する原因の一つである.この時期には積極的な運動を必要とするが,その目的はphysical fitnessを高め,冠動脈性心疾患の原因となっているアテローム硬化に対して好影響を及ぼすことである.
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