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はじめに
脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者と略す)に対するリハビリテーションの過程において,多くの患者は程度の差こそあれ疲労感を訴える.患者の訴える疲労感が,何らかの基礎疾患を背景とした病的なものでない場合には,疲労の原因として,身体運動の内容(運動の強度・持続時間・頻度)と運動に直接関与する筋・骨格系や呼吸・循環系の機能との関係が考慮される必要がある.即ち,筋・骨格系や呼吸・循環系の機能が正常でも,身体運動の内容が過剰である場合,または筋・骨格系や呼吸・循環系の機能が正常な場合には妥当と考えられる内容の身体運動が,機能の低下した筋・骨格系や呼吸・循環系に負荷された場合などのように,運動に直接関与する器官に対して相対的に過剰な身体運動が加わった場合に疲労が生じてくると考えられる.
筆者らは片麻痺患者の体力に関する検討を行ってきたが1,2),その端緒となったものは片麻痺患者の易疲労性であった.筆者らは易疲労性の原因として片麻痺患者の全体的な体力の低下を考え,体力の指標として心拍数・100に対応する酸素摂取量,(VO2)100または心拍数・120に対応する酸素摂取量,(VO2)120を用いた場合,片麻痺患者の中には同年齢層の正常者と比較して著しく体力の低下している者が認められること,並びに片麻痺患者の全体的な体力低下を招来する要因として1回心拍出量の低下が挙げられること3),を述べてきた.これらの結果から片麻痺患者の疲労は,前述の片麻痺患者において疲労が生じると考えられる場合の後者において,即ち機能が低下した器官(特に循環系)に対して相対的に過剰な運動負荷が加わった場合に生じていることが少なくないことが示唆される.
ところで,片麻痺患者における体力と疲労との関係を検討する際に問題となることは,身体運動に伴って生じる疲労度をいかにして定量的に評価するかということである.身体運動による疲労度は運動の強度が強まるに従って増強することから,運動によってどの程度の疲労感を覚えるかということは,負荷された運動をどの程度強く感じるかということに置き換えることがある程度可能であると考えられる.身体運動の主観的強度を定量的に測定するための尺度としては,Borgによるratings of perceived exertion(RPE)4~6)が最もよく用いられている.RPEは6から20までの15段階から成り(表1),種々の最大下運動時の心拍数(HR)4,7)・心拍水準(%HR)8)・酸素摂取量(VO2)9)・酸素摂取水準(%VO2)8,9)との間に直線関係を有することが知られている.有酸素的作業能力を指標にした場合の体力とRPEとの関係を考えてみると,有酸素的作業能力の高い者は低い者に較べて,酸素運搬系の能力が高いために一定のVO2レベルの最大下運動時には酸素運搬系の能力に余裕があり,負荷された運動の強度をより弱く感じる,即ち低いRPE値を示すことが予想される.
片麻痺においても,最大下運動時のRPEとVO2との間に直接関係が認められることが確認されれば,一定のVO2に対応するRPEの推定が可能となり,これを片麻痺患者の最大下運動時の疲労度の指標として,片麻痺患者の体力と疲労との関係を明らかにすることが可能となる.以上より,本研究の目的は①片麻痺患者において,種々の最大下運動から得られるVO2とRPEとの関係を検討すること,②筆者らが片麻痺患者の体力の指標として用いてきた,(VO2)120と一定のVO2レベルにおけるRPEとの関係を検討すること,の2点である.
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