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Ⅰ.まえがき
歩行は日常生活行為を支える環境適応性の高い移動手段であるのみならず,体力の維持,精神機能の賦活などのためにも有力な方法であり,更にあるときには生き甲斐を支える拠所ともなっている.したがってこれらのことがリハビリテーション(以下リハビリと略す)の実施面において,歩行障害に対するアプローチの占める比重が高いことの理由となっているといえよう.ところで本講座のテーマである歩行障害に対する包括的アプローチを定義するにあたり,まず次の事柄について若干の説明を行っておくことにしたい.それはアプローチを1.何を目的に(目的)2.どのような標的に対して(標的)3.どこで,誰が(場と連携)4.どのようなことに注意しながら(安全性の管理)行うかということである.
(1)目的について:アプローチの目的は単に歩行障害の軽減,改善にとどまらず,患者が障害を克服し,生活環境に適応できるように支援することであり,このことはアプローチの基本的指針として極めて重要である.
(2)標的について:障害を階層別に捉えるという考え方によれば,歩行障害は能力障害の中に位置づけられるのが妥当であろうが,歩行という運動を構成している機能的な要素の障害,歩行の能力障害によって被る社会的不利益なども,広い意味の歩行障害1)に含めることができよう.このように歩行障害を広義に捉えておくことは,障害の重症度に応じてプログラムを選択するのに役立つ.
(3)場と連携について:竹内2)はリハビリ活動の実践の場は患者が実際に日常生活を送る場において展開すべきであり,リハビリの施設はこのための準備を行う役割りを持つと述べている.この見解にたてば,リハビリの施設と日常生活が営まれている地域社会との間には,基礎的学習と応用的展開というそれぞれの役割を持った密接な連携が必要となる.一方それぞれの場における連携は,医師を中心としたチームワークといわれているもので,このチームワークの良否はアプローチの円滑性と効率性に大きな影響を与える.
(4)安全性の管理について:脳卒中の患者はさまざまな内部疾患と合併症をもっており,この中で高血圧,心肺系の疾患,運動器の疾患,卒中後けいれん発作などの管理は歩行障害のアプローチと特に密接な関連がある.一方片麻痺患者にしばしばみとめられる転倒による大腿骨骨折が歩行障害に与える影響は誠に甚大である.これらの疾患の管理,転倒予防のためのプログラムは,アプローチの有効性を支援する側面を形成している.以上述べてきた4項目の事柄,すなわち所定の目的達成に向かい,適切な標的を定めつつ,それぞれの場における連携を深めて,安全性の管理を行いながら広い視野に立ったアプローチを行うことを包括的アプローチということにする.以下本講座ではこの包括的アプローチをどのようにして実施するか(方法)について解説を行う.そしてこの方法の具体的内容として,計画と情報処理の二つに焦点をしぼることにしたい.
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