とびら
治療する側と治療される側の落差
服部 一郎
1
1長尾病院
pp.501
発行日 1983年8月15日
Published Date 1983/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518102899
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開業医として心なごむのは患者さんからの感謝の言葉である.この喜びがあればこそ,来る日も来る日も単調で同じことを繰り返している労苦は一瞬にして吹きとび,新たなる勇気が湧き起こる.不幸にして亡くなられた場合,遺族の方は丁重に御礼の言葉をのべて帰られるが,果して全力を尽してあげたかどうか,しばらくは悔恨の思いが心の中を馳け巡るのである.諸事万端を済ませた後,遺族が改めて挨拶に来られた時は,治療した側の努力を幾分でも認めて頂いたものとして,初めて心の底にかすかな安堵を覚える.しかし最大の喜びを感じるのは,その遺族が何か病気された時,再び外来を訪れ診察を乞われた時であろう.家族が亡くなられた病院には,故人の悲しい,また厭な思い出が先に立って,足が向かないのが人情である.それだけに胸に熱いものがこみあげ,医師として冥利に尽きる.
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