今月の言葉
落差をうめる努力を
pp.5
発行日 1954年6月1日
Published Date 1954/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200612
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先日産婦人科関係の学者が集まつて雑談に花がさいた席上,談たまたま助産婦の向上に及んだところ,全国を講演しているさる先生が慨嘆していうには"まだまだ助産婦のレベルは低いですよ.地方では血圧をはかつている人は手をあげてくれというと,まばらなものです.寒心にたえません"と.おそらく本誌の読者にはそのようなことはないであろうし,いまどきの進んだ助産婦が血圧もはからず,検尿もしないなんて考えられないというであろう.だがさきに慨嘆された先生は全国を歩いて助産婦の実情によくふれている方であり,その嘆きの背景には実感がこもつていた.必ずしも誇話の辯ではあるまい.
日本の学問水準や文化水準が湯川秀樹に代表されるとも思わないが,日本の近代的開眼のおくれは,学問の上にも,文化の面にもよくあらわれているようだ.12才の精神年令というようなきびしい批判に日本人がさらされたのも,日本の終戰後の混乱の中での精神状態にピントが合された言葉と解することができよう.戰爭遂行の過程において盲にされた合理精神を抹殺された日本は,終戰後の興えられた解放のなかで,先ず近代を獲得することに努力を傾けたのだが,それと平行して近代を乘りこえ現代の課題を追求する仕事を課されたわけである.
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