The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 16, Issue 10
(October 1982)
Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
Ⅰ.はじめに
わが子の“すこやかな育ち”を願わない親はいない.子ども達は,こういった親の想いや願いの中にあって,順調な発育をみせて育っていくものである.その意味では障害のあるなしにかかわらず,この育ちの土壌が基本的に整えられた上に育児の具体的展開がなされることが大切であると考える.
ところが,精神薄弱児の育ちを捉えてみると,順調な発育状態をみせる子どもは少なく,どこかに歪みをもっている子や子供の能力に応じた力を順調に出していない子どもの方が多いのである.
筆者は,当弘済学園の母子入園機関(精神薄弱幼児と母親を対象に3ヵ月間,合宿して訓練をする)を10年来進める立場にあって,精神薄弱児の母子関係について学ばせていただいてきた.この中で,精神薄弱児と母親の関係は,なかなか理想通りにいかず,複雑で困難な問題が横たわっていることを知らされてきた.しかし,子ども自身がすこやかに育っていくためには,この点をしっかりと着眼し,厳しい場面に遭遇しながらも,そこを乗り越えて“好ましい母子関係を確立すること”に向わなければならないこと,そしてここに育児の根底があることを親に正しく認識してもらうことが必要であることも知った.精薄児の育児は健常児の育児と基本は全くちがわない.しかし,考え方を漠然と持つのではなく,明確にしていかなければならない点もある.その意味では,基本的な人間のとらえ方から母親自身が自分に問わなければならないようである.もちろん,具体的な育児の適切な進め方についてもである.健常児の育児との共通点と相違点を明確にしながら,根底となる母子関係が確立されていかねばならないのである.
ここに精薄児の母子関係の実態をとらえながら,好ましい母子関係の確立のためにどのようにとり組むことがよいのかを考えてみたいと思う.
Copyright © 1982, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.