The Japanese Journal of Physical Therapy and Occupational Therapy
Volume 7, Issue 11
(November 1973)
Japanese
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1.はじめに
脊髄損傷とは,交通事故,労働災害,スポーツ災害などによって脊椎に骨折が生じ,隣接する脊髄に挫滅壊死が起り,生涯にわたって神経麻痺を残すものである.脊髄神経は御承知の通り,上から頚髄(8),胸髄(12),腰髄(5),仙髄(5)の各髄節に区分され,各髄節から身体の固有の部分におのおの脊髄神経を出しているが,その中で膀胱に分布する最も重要な神経は脊髄の最も下端に近い第2~第4仙髄から出ている.この部分は仙髄の排尿反射中枢といわれる自律神経の反射路の中枢にあたり,下等脊椎動物や人の乳幼児でも良く発達しており,生体にとって排泄という生命を維持する上で最も基本的な生理機能であるため,強い自律神経反射路によって構成されている.脊髄の中を走っている神経は,社会生活上適切な場所と時間に排尿をコントロールするための大脳から仙髄に至る知覚神経,抑制神経と考えてよい.
通常,脊髄の損傷が起ると,そのレベル以下の脊髄神経はすべてショックに陥り,完全な麻痺状態になるが,排尿中枢が脊髄最下端にあるため,例外なく排尿反射が麻痺し,いわゆる尿閉の状態となる.この時期にはなんらかの人工的方法で膀胱内の尿を排除してやらねばならない.やがて脊髄ショックの時期が去ると,膀胱平滑筋の反射性収縮が少しずつ恢復し,いわゆる恢復期に入る.この時期には膀胱訓練(排尿訓練)を開始することが大切で,次第に自力による排尿能力が復元し,訓練が理想的に行なわれると殆ど残尿(自力で排尿した後膀胱内に残る尿)を残すことなく排尿が可能となり,慢性期に入る.これら脊損の急性期から慢性期に至る期間(通常受傷後数ヵ月から半年位)内に行なわれる医療および訓練を含めた膀胱管理が患者の以後の生命予後を大きく左右するのであるから,このことをいい加減にしては次のリハビリテーションは考えられないのである.
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