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耳鼻科領域で肝障害を問題とする時には,ほぼ2つの事が考えられよう。1つは,その肝障害が耳鼻科領域で考えられている処置の諸々へ及ぼす影響であり,他の1つは,耳鼻科領域での処置が,その障害された肝に及ぼすであろう影響である。しかし,実地臨床上から考えれば,むしろ耳鼻科領域の処置をする時すでに肝障害があつたが,またはその処置後に発生した肝障害であるかと分けて考える方が便宜であろう。
肝障害がある時には,各種の侵襲に対する生体の反応には正常と異なるものがある。この侵襲は,手術といつたものから,睡眠剤の投与といつたものまでが含まれよう。肝に障害がある時には,その質,程度に差はあつても,代謝,栄養,解毒,疑固,等々各種の面での変化が予期され,したがつて,たとえば手術に際し,異常な出血をみたり,治癒の遷延があつたり,投与薬物への友応の変化をみたりする。こうした,いわば肝の正常な機能が欠けていることからの直接的な影響のみではなく,肝障害の質によつては,たとえば肝硬変にみられるように,内分泌系,循環系,消化管等々に各種の障害がおこつている可能性が強い。たとえば糖代謝異常の頻度は高く,心拍出量は増加し,末梢血管系は拡張し,消化管運動の失調がありといつた具合である。すなわち,単に肝障害があるからといつても,全身的な配慮が必要となるのである。他方,手術前後を通し,各種の侵襲が加わるのであるが,これらは,既存の肝障害に影響してくることは当然予期される所である。たとえば輸血による輸血後肝炎の発生,溶血による負荷,酸欠症等々無数のものがあげられよう。こうした侵襲の程度と,それにより惹起される肝障害の程度の間には必ずしも平行関係は見出しえない。たとえば既存の肝障害が急性肝炎である時,ささいな侵襲が重篤な肝不全の誘因となつたりするのである。
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