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Ⅰ.緒言
ヨーロツパの医師の経験によれば鍼術のよく効を奏する疾患は神経痛,偏頭痛,眩暈(メニエル氏病)喘息,消化器疾患,種々の耳鼻科疾患(耳硬化症,蓄膿症),糖尿病,高血圧などであるといわれ,またSchmidt氏は私はパリで師のDr. de La Fuyeに難聴症の電気鍼法を学んだが難症の難聴症の50〜60%が電話をかけたり玄関のベルがきこえるぐらいに治しそのために職業から遠ざかつていた者が再び職につくことができたなどというと耳鼻科医は不思議がるかも知れないが事実であると申しております。昭和37年7月8日の毎日新聞にオシも治る漢方のバリと炙なる題下に中国内モンゴルのフオハオト市の病院で働いている72歳の漢方医郝明徳は聾唖者246人にバリとキュウによる治療を行つた結果は86人が聴力をほぼ完全に回復,99人がある程度回復しいずれも簡単なことばが話せるようになつた。ただし先天的な聾唖者や高年齢のものには効果が薄くハシカやカゼなどからなつた後天的の聾唖者にききめがあり年が若いほどよくなおるという(ANS)。しかるに日本において耳鼻科医による難聴に対する鍼治療の文献を私の寡聞之を見ることができなかつた。私は昭和24年板倉武の治療学概論に炎症を離れた部位の刺激によつて効果的治療を行うことや,東洋医学において難聴に関係ある経穴が身体各部に存在することが頭にこびりついていたが昨年10月中谷義雄博士の良導絡の話をきき,追試して難聴に効果あることを確めることができました。東洋医学の鍼灸に関する学問は深遠でありしかも難解のところが多いので浅学菲才の及ぶところでないが聊か経験例をのべ東洋医学が実験的効果を有するものであることを強調するとともに今後優秀な後続研究の出現を待望したい。しからざれば東洋医学はSchmidtが豪語するように彼は日本に来て鍼炙を学び独逸に帰つて盛に研究を続けているのであるが,日本人がぼやぼやしていると日本への逆輸出が実現されるかも知れないからである。今や鍼表の経穴経絡名はすでに仏蘭西において学術名が全部につけられてあります。どこの経穴を刺激すれば脳下垂体前葉ホルモンが出て,どこの経穴を刺激すれば甲状腺ホルモンが出ることも仏人によつて独逸針雑誌に発表されております。
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