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I.まえがき
結核に対し一般にSMが週2回2g使用されるようになつてから,SM難聴は程度及び頻度に於て著明に減少してきたといわれているけれども,私達が東京逓信病院で34年度に定期的聴力検査を行つたSM使用患者98例に就て調査した結果では26例(26.5%)に難聴の発生を認め,全般的に程度こそ軽度ではあるが,発生頻度としては必ずしも少ないとはいい得ない現況である。
最近電気生理学的,組織化学的並に生化学的研究方法が導入せられて以来,SM難聴を中心として神経難聴の病理が急速に解明せられるに至り,病理の中心をなすものは解糖系及びTCA回路の障害である事が明かとなつた。私達はこの観点から解糖系及びTCA回路の代謝を促進する薬物と考えられるチオクト酸(リポ酸)1)2),パントテン酸3),ATP4)等を単独使用し或は之等薬物を相互に併用し,又はVB1と併用してSM難聴乃至其他の神経難聴の治療を試み,その治療効果に就ては既に紙上又は学会に於て順次報告してきたところである。これ等薬物のSM難聴に対する治療効果を要約すると,判定基準を可成り寛大にしたにも拘らず,有効率は20〜30%を示すに過ぎず満足すべき結果とはいい難い。然し又この事はSM難聴の治療が如何に困難であるかを如実に示す数字であるともいえる。
コンドロイチン硫酸は志多氏が実験的並に臨床的5)6)にSM難聴の治療及び予防に卓効のある事を報告して以来,SM難聴のみならず職業性難聴,音響性外傷と其他の内耳性難聴に使用し,既に数多くの報告をみている。コンドロイチン硫酸は生体内に於ては結合織の糖蛋白主要成分で軟骨組織中に最も多く,その他間葉系組織に含まれて広範囲に分布し,体組織の一大構成成分をなす酸性多糖体であつて,細胞間隙に介在して実質細胞と組織液との間に行われる物質代謝を正常に調節するといわれており,チオクト酸,パントテン酸,ATP等とはその使用機序を異にしている。
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