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においのある物質の溶液,たとえばサルバルサン,カンフル,ビタミンB1等の溶液を鼻からかいでみると,それぞれ特有のにおいを感じる。これは即ち鼻性(呼吸性)嗅覚である。一方これらの溶液を静脈内に注射すると7〜8秒後に同様ににおいを感じ,しかも鼻からかぐ場合よりもより強く感じることは既に知られているところである。静脈注射によつてどうして嗅覚が起るかというと,これらの物質のにおいが気道(主として肺)から放散され,これが呼気に混じて主として後鼻孔から鼻腔に送られ嗅神経末梢を刺戟するために嗅覚を起すと考えるのが常識的な考え方である。このことについては既に1916年にForschhei—merがネオ・サルバルサンを静注すると,注射されたサルバルサンのにおいが呼気に混じて出て,来て,これによつて嗅覚が惹起されると述べている。ところが1930年にBedntär, Langfelder等は静脈注射によつて起る嗅覚は,静脈内に注射されたにおいのある物質—嗅素—が血行中で直接に嗅神経末梢に到達しこれを刺戟するために起るものであるという説を提唱した。彼等はこれを血行性嗅覚(或は静脈内性嗅覚)と呼び,従来考えられている嗅覚,即ち呼吸性(或は鼻性)嗅覚とは全然別に存在するものであると主張した。1938年,石川はこれを追試して両氏の説に賛成し,嗅覚は鼻性と血行性の二つに大別しうるということを述べている。我々は嗅覚障碍の治療法として水溶性カンフル(ガダミン)の静脈注射療法を試みた際,たまたまこの血行性嗅覚の存在について疑念を抱いたので,これを検討した結果,血行性嗅覚なるものは存在せず,所謂血行性嗅覚と考えられたものは普通の鼻性(呼吸性)嗅覚にほかならぬという結論に達したのでここに報告し,諸賢の御批判を仰ぎたいと思う。
Bednär, Langbelder等が血行性嗅覚の存在を主張する根拠は何処にあるかというと,それは彼等の行つた次の如き実験の結果によるものである。即ち彼等は被検者として嗅覚正常なものを選び,鼻腔に流動パラフィンを浸したタンポンを施し,先づ鼻性嗅覚の存在しないことを確かめたのちネオ・サルバルサン溶液,カンフル溶液,再餾テレピン油等を静注すると,それぞれ特有の嗅感覚を認識した。従つてこの際起る嗅覚は鼻性(呼吸性)嗅覚とは無関係の全く別種の嗅覚であつて,これは血行性に直接嗅神経末梢部に到達して起る嗅覚であるから血行性嗅覚であると考えたのである。しかしこの実験では完全に鼻性(呼吸性)嗅覚を除外したとは言えないのである。何故ならば,鼻腔はタンポンによつて遮断されているから,呼気の大部分は口から出るけれども,その一部が後鼻孔から入つて鼻腔の後部から上昇し嗅神部に到達しないとは断言出来ないからである。(嗅神部の全部をタンポンガーゼで覆うことは不可能である)従つて,鼻腔にタンポンを施して鼻呼吸を遮断しておいてもなおかつ嗅覚が起るからこれは血行性の嗅覚であると断定するのは早計であるといわざるを得ない。そこで我々はもつと完全に鼻呼吸を除外してもなおかつ嗅覚(所謂血行性嗅覚)が起るか否かについて実験した。
Sato and associataes maintain that the only way by which oltaction may be registered is through the nasal end organs: other sources, such as vascular routes by intravenous intro-duction of ordorous agents, are incapable, per se, of causing a registration of the sense of smell. Particularly is the latter Point born out vividly by absence of olfaction during intrave-nous injections when respiration is temporarily abrogated. Through their investigations the au-thors hold that the so-called circulatory olfa-ction, proposed by Bednar, Langfelder and othe-rs, is noted by its absence: ostensible olfaction under such circumstances resolve to be no more than a result obtained through the ordinary route of nasal olfaction.
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