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Ⅰ.はじめに
2018年の総務省統計局調査では,わが国の総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合(高齢化率)は28%を超えただけではなく,75歳以上の高齢者人口の割合も14.2%で,人口の7人に1人が75歳以上とすでに超高齢社会へと突入している.また国立社会保障・人口問題研究所の推計によると,2040年には高齢化率は35.3%になると見込まれており,わが国は世界中のどの国も経験したことのない“超々高齢社会”を迎えようとしている.
超高齢社会となった現在,保存的,外科的治療にかかわらず,われわれ脊椎外科医が高齢者の腰椎変性疾患あるいは脊柱変形を治療する機会は確実に増加している.さらには高齢者に対する内科的治療の進歩や高齢者のQOL意識の高まり,自立した高齢者を望む家族や社会のニーズなどから,外科的治療を望む高齢者も増加している.
一方で,脊椎脊髄疾患を取り巻く治療概念や治療方法もこの10年で大きく変わってきた.運動器疼痛や神経障害性疼痛に対する新しい薬物治療,テリパラチド,デノスマブなどの骨粗鬆症治療のさらなる進歩,骨盤を含めたグローバルな脊柱矢状面アライメントの理解,脊椎脊髄内視鏡手術の普及,脊椎インストゥルメンテーション手術の進歩,経皮的椎弓根スクリュー(percutaneous pedicle screw:PPS)や側方経路腰椎椎体間固定(lateral lumbar interbody fusion:LLIF)などによる脊椎固定術の低侵襲化,pedicle subtraction osteotomy(PSO)やvertebral column resection(VCR)などの各種骨切り術の普及,術中3Dイメージ装置やナビゲーションシステムなど先端的脊椎手術支援機器の発展などが,高齢者の腰椎変性疾患や脊柱変形の治療に対しても多くのメリットをもたらし,治療適応も広がり,治療成績も向上してきた.
しかしながら内科的疾患を有し,骨粗鬆症による骨脆弱性を伴った高齢者の腰椎変性疾患や脊柱変形に対する手術治療は,いまだにその適応や治療方法などが確立されているとはいえず,どのような症例にどこまで矯正すべきかを明確に判断することはできない.PSOやVCRなどの骨切り術により,高度な後側弯や矢状面バランス不良に対しても効果的な矯正が得られ,その手技も標準化されてきたものの,高齢者にとって骨切り術の手術侵襲度は決して低いとはいえない.また,PPSやLLIF,ナビゲーションなどを用いて脊椎固定術の低侵襲化はなされてきたが,合併症が有意に低減したというエビデンスはなく,高齢者にとって安全な治療法になったわけではない.内科的治療が進み,骨粗鬆症治療も進歩したとはいえ,周術期合併症と骨粗鬆症の制御こそが,高齢者の腰椎変性疾患や脊柱変形矯正手術の治療成績を決定づけるといっても過言ではない.本稿においては,高齢者の腰椎変性疾患,特に成人脊柱変形に対する治療の適応と限界について概説する.
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