コラム:医事法の扉
第22回 「医師の裁量権」
福永 篤志
1
,
河瀬 斌
1
1慶應義塾大学医学部脳神経外科
pp.171
発行日 2008年2月10日
Published Date 2008/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1436100693
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医療行為は「業務」の1つですが,同じ「業務」である自動車の運転行為等とは異なり,極めて高度な専門性・技術性を要する「業務」です.したがって,医療行為が原因で患者に損害が発生した場合に,その医療行為が業務として適切であったかどうかの判断には,単純なルール違反の有無ではなく,専門性・技術性の範囲内で許容されるか否かが検討されることになります.すなわち,医師による医療行為が,その専門性・技術性の観点から許容された範囲を逸脱した場合に限り,医師の裁量を逸脱し,その医療行為は違法であると判断されます.つまり,専門性を尊重して,その範囲で裁判所の判断権が制約を受けます.
患者には必ず個人差があります.その差を見極め,担当患者にとって最適・最善の医療を提供するのが医師の役目ですから,原則として,各患者において臨機応変な治療が要求されます.つまり,医師は,治療の「さじ加減」を任されているのです.これが,まさに「裁量権」です.このように「裁量権」には幅がありますが,その裁量の範囲は明確ではありません.法律上にも規定はありません.この点,最高裁は,治療行為に注意義務違反があったか否かについて「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」に照らして判断すべき旨を判示していますので(昭和61年5月30日判決),ある治療行為が医師の裁量の範囲内であると評価されるためには,まず上記医療水準に達している必要があると考えられます.
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