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Ⅰ.はじめに
脳腫瘍のなかで化学療法の適応となるものは,悪性神経膠腫(malignant glioma),悪性リンパ腫,胚細胞性腫瘍が主なものである(Table 1).そのなかでも本稿では,頭蓋内腫瘍のうち約30%を占めるとされる神経膠腫に対する化学療法について,変遷を踏まえて最近の知見を概説する.
神経膠腫は,組織学的に星細胞系腫瘍(astrocytic tumors),乏突起膠細胞系腫瘍(oligodendroglial tumors),上衣細胞系腫瘍,脈絡叢腫瘍,混合膠腫,組織発生不明腫瘍および胎児性腫瘍などに分類される.ただし,成人大脳半球に発生する神経膠腫は,星細胞系腫瘍と乏突起膠細胞系腫瘍に大別される.そして組織形態を表す指標として,表現は異なるが内容は同じである分化度と異型度が用いられる.分化型(良性)はgradeⅠとⅡ,未分化型(悪性)はgradeⅢとⅣに細分類される.
神経膠腫には以下のような生物学的特徴があり,これらを十分に理解したうえで治療を考える必要がある.第1に,髄腔内播種はしばしば認められるが,他臓器への転移は稀である.したがって,局所制御が予後を決定する重要な因子となる.第2に,分化型の腫瘍においても浸潤性格が強く,原則として腫瘍の境界が存在しない.Wilson 67)によれば,約4cmの膠芽腫(glioblastoma,WHO gradeⅣ)の場合,腫瘍から3~4cm離れても細胞の100個に1個は腫瘍細胞であり,さらに驚くべきことに6cm以上離れた対側大脳半球でも,1,000個に1個の割合で腫瘍細胞が存在するとされている.第3に,脳には機能局在があり,eloquent areaの摘出は不可能である.また,放射線治療は線量を増やすことで効果は高まるが,放射線による機能障害が問題となる.第4として,血液脳関門が存在し,これを通過する薬剤が限られる.通過を規定する因子として,脂溶性か水溶性であるかの差と分子量が挙げられる.脂溶性のものほど通過しやすいが,通過後の組織内分布は,逆に水溶性のものほど移行しやすい.他方,分子量が小さいものほど通過しやすい.したがって,一般的に使用されている抗癌剤の大部分は効果が期待できない.このような特徴もあり,悪性神経膠腫では最終的に腫瘍死を免れない.脳腫瘍全国集計調査報告14)にも示されているように,悪性神経膠腫のなかでも膠芽腫の5年相対生存率は過去30年間で向上したとは言いがたく,現在でも7.2%と悲惨な状況である.そんななか,乏突起膠細胞系腫瘍における化学療法に大きな転機が起こった.
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