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東京医科歯科大学と東京工業大学が統合するというニュースは,皆様もうご存じのことと思います。私も同窓会から新大学の名称案を出せとの手紙を受け取り,研究面で尖った大学を目指すだろうから「先端」「卓越」などという単語を冠した大学名をいろいろ考えましたが,誰でも思いつく名称はほとんど既に使いまわされているのですね。結局出せずじまいで決定を待っていたら,「東京科学大学」。これがまだ残っていたか,ど真ん中のストレートを呆然と見送った気分でした。都内のいくつかの国立大学が1つになるという構想はずいぶん前からあって,この2大学プラス一橋大学,東京外国語大学,東京藝術大学の5大学連合というのがスタートでした。基本的には第二東大をつくろうという発想だったと思いますが,藝大が入っているので,私自身は実にチャーミングな総合大学が出来上がるのではないかと内心期待していたことを記憶しています。残念ながらまず藝大が脱退して4大学連合になり,時を経て理系2大学の統合ということになったわけですが,この流れは,工学と結びつくことによる明日の医学を象徴しているように思います。
本号ではメタバースを特集しました。自分の意思では自由にコントロールできない肉体との葛藤が神経難病の患者さんの日常ですが,仮想空間に自分のアバターを置いて,そのアバター君が現実と寸分変わらない社会生活を営めるのであれば,肉体の制限をはるかに飛び越えることができます。BMI(brain machine interface)という言葉,どこかでお聞きになったことがあるでしょうか。脳と機械を通信させる技術,平たく言うと脳で考えたことを機械を通じて外部にアウトプットするテクノロジーです。もちろん,現時点ではまだ発展途上の技術ですが,近未来にさらに進化したこのBMIとメタバースが結合すれば,例えばALSでtotal locked-inの状態にある患者さんであっても,自分の考えたこと,しようと思った動作が煩雑なデバイスを介することもなく即アバター君に反映されるわけですね。医療者としてはこの患者さんの脳を含めた肉体の健康管理に集中すればよいということになります。
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