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あとがき/読者アンケート用紙
酒井 邦嘉
pp.978
発行日 2015年7月1日
Published Date 2015/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200242
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最近私は万年筆に凝っている。万年筆は,紀元前エジプトの葦ペンや,中世ヨーロッパの羽根ペンに起源があって,材質やインクの吸入機構などの改良が続けられてきた。1930年代には,ペン軸を12面体にした斬新な万年筆や,小さな体温計を内蔵したDoctor's Penが登場している。戦後はボールペンに大きく水をあけられ,原稿を書くのも今やキーボードを使うのが当たり前になったが,それでも万年筆は多くの人に愛され続けている。
万年筆に特有の魅力は,適度にしなりのあるペン先と,水性インクによる滑らかな書き味にある。インクフローがよければ,ほとんど筆圧をかけなくとも,毛筆のように筆の運びが濃淡として紙に残るから,文字の特徴が引き立つ。そのため,時間が経っても書字や思考の過程を辿りやすいのだ。私は走り書きのメモをPDAの手書きソフトでデジタル化していたことがあるが,後で読めなくなるという問題が頻発し,結局止めてしまった。そうした失敗は万年筆で書けばほとんど起こらない。今はスマホに頼ることなくメモ帳を常に携帯している。お気に入りの万年筆(私はペリカン派)なら書くこと自体が楽しいし,字も自然と丁寧になる。
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