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2003年2月21日~22日にかけて,神戸で「糖尿病学の進歩」が開催された.今回の学会全体を通じての印象として,演題タイトルや発表者の発言の中に「ヘルスプロモーション」「NBM(Narra-tive based medicine)」「エンパワーメント」といった,これまでこうした場ではあまり耳にする機会が少なかった単語がしばしば聴かれ,この1年間の時代の変化を実感した.
私は第1日目石井均先生によるランチョンセミナー「糖尿病―心理と行動の最新研究」に出席し,引き続いてシンポジウム「糖尿病患者の心理と行動」に参加した.まずランチョンセミナー会場に着いて驚いた.なんと100 m以上にもなろうかという,まるでディズニーランドの人気テーマパーク顔負けの長~い行列ができていて,この分野への関心の高さを感じた.大規模臨床試験DCCT(Diabetes Control & Complications Trials)やDPP(Diabetes Prevention Program)における輝かしい成果のみが伝えられているが,強化療法群あるいはライフスタイル介入群において,そのセルフケア行動の継続を可能にするために,どのような心理行動学的手法がとられていたかについてはあまり知られていない.今回のセミナーでは「行動を変える―DCCTの実践的教訓」「DPPにおける長期維持プログラム」が紹介された.DCCTの強化インスリン療法群における厳格な血糖コントロールやDPPのライフスタイル介入群での長期にわたる体重減少維持,これらを実現させたものは,まさに患者に対する綿密な心理行動学的サポートであったことが報告された.すなわちDCCTでは患者の価値観,信念,目標などを確認するとともに,患者の準備状態に合わせた指導,予期できる問題に対する準備,行動の強化などが的確に行われていたと言う.またDPPでは16セッションから成るコアカリキュラムが準備されており,その中には食事療法や運動療法,低血糖対策といった知識や技術的なセッションの他に,エンパワーメント,行動科学,対人関係理論,自己効力理論,ヘルスビリーフモデルなど,実に多くの心理行動学的セッションが行われていたのだと言う.どんなに完璧な血糖管理も患者のQOLやウェル・ビーイングと両立しなければ意味がない.血糖管理良好群の背景としては「糖尿病の知識」よりも「ウェル・ビーイングが良い」「家族のサポートが良い」のほうが重要であったという報告は,まさにこれを物語っている.最後に,石井先生は「心理のケアをしてこそ,糖尿病技術のアドバイスができる」という言葉で結ばれた.
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