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【Case】
出羽医療科学大医学部5年生の徳本典子さんは,診療所を中心に山村の地域医療を展開する森林蔵先生の施設に実習に行くことになりました.森先生は以前から医学教育に関心が高かったのですが,今年度から学生を受け入れることになり,近年の医学教育に生じている変化についても本や論文を通じて学んでいます.今日は,初めて徳本さんが外来で初診の患者さんと面接することになりましたが,森先生はレディネス(学習に対する心的準備状態)を確認すべく,徳本さんにいくつか質問してみることにしました.
森 徳本さん,今日はいよいよ医療面接をやってもらいます.今までどういう勉強をしてきたかについて聞かせてもらってもいいですかね.まずは,出羽(医療科学大)ではPBLやテュートリアルといわれているカリキュラムをやっているようですが,感想はどうですか?
徳本 出羽では4年生の1年間,40週で20症例やりました.臨床実習を控えている時期ですし,興味を持って勉強できたと思います.
森 僕の理解だと,PBLって臨床問題解決のスキルを身に付けるための学習法かなって思っているんだけど,そういうスキルが身に付いた気はしますか.
徳本 臨床問題解決のスキルって何ですか?
森 患者さんから情報収集して,診断を絞り込んで,治療の計画を立てるような流れっていう感じかな.
徳本 PBLのシナリオには,すでに患者さんから集めた情報は書かれてあるので,患者さんからの情報収集はしません.シナリオに書かれた情報を駆使して診断を当てるクイズのような感じになってしまいがちですね.
森 ふーん,そうなんだね.僕が一番わからないのは,PBLで重視されている問題発見っていうプロセスなんだけど,そういう診断当てクイズの中で,どういう問題を発見するのかな?
徳本 私たちのグループでは,まず診断をはっきりさせようとしていました.そうすれば,診断に付随した問題点が次々と出てきます.たとえば,心筋梗塞の症例だとわかれば,心臓の解剖,心収縮・刺激伝導系・心拍数の生理,心筋梗塞の心電図・心エコー,心筋梗塞のカテーテル検査と治療,心筋梗塞の合併症…といった学習課題が挙がります.今日,たまたまそのシナリオ(シナリオ1)を持っているので,お見せします.
森 へぇー,すごいね.でも,今挙げてもらった課題って,すべて生物医学的っていうか,患者さんの人間的な背景が関係ないものだよね.癌患者を抱えた家族,患者さんが仕事を持っていたのならその影響,緩和医療,尊厳死など死にまつわる問題というふうな話題は出なかったのかな.
徳本 そうですね.私たちのグループでは20症例の初めのうちはこういう話題も出していました.でも,私たちもテューターの先生たちも,こういう答えのない話題って尻込みしちゃうんですよ.シナリオには,心理背景や家族・地域社会の状況なんてあまり詳しく書いていませんし,やたらと検査データなんかが並んでいて,圧倒されていたんで….
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