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あとがき
大山 学
pp.470
発行日 2020年5月1日
Published Date 2020/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412206084
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どうしても外せない用事があって久しぶりに都心を訪れた.平日の夕方,いつもならラッシュアワーでギュウギュウ詰めになるはずの大江戸線の狭い車内は,隣と間をあけて座っても十分余裕があるほど空いていた.外に出ると,まだ明るい.普通の日の午後に都心でこれほど人を見ないのはとても珍しいが,それには強い既視感があった.そう,東日本大震災直後の都心部の光景である.なくなりかけたトイレットペーパーは,「そういえば,あのときも近所ではすっかり売切れだったが,新宿の病院(当時の勤務先)の裏にひっそりとある薬局では買うことができたな」と思い出して訪れた神保町のドラッグストアで見つけることができた.物流まで似かよった状況のようだ.鬱々とした日々を送る人々の重い気持ちとは無関係に,日ごと暖かくなる陽気と咲き誇る桜のちぐはぐな感じもその当時に通じるものがあった.
放射線とウイルス.どちらも見えず,ヒトの身体を蝕む.ただし,今回のハザードは全世界を直接的に巻き込み,致死的となる確率も高い.さらに,人々が互いに寄り添うことを許さないという決定的な違いがある.
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