--------------------
あとがき
朝比奈 昭彦
pp.374
発行日 2019年4月1日
Published Date 2019/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412205689
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
私の自宅は,緑が多く残る神奈川県の住宅地にある.しかし,職場のある都心までの通勤時間が長い上に,学生のころ経験したラッシュに比べればましになったとはいえ,電車が非常に混む.そのため,平日には自宅に戻らずに職場の近くで暮らすようにしている.ところが日夜,高層ビルと人に囲まれていると,体は少し楽になっていても,心がなかなか休まらない.目の前の仕事で手一杯で生活に余裕もなくなり,気分転換ができないまま時間ばかりが早く流れていく.もちろん私に限らず,特に都市部の環境で働くような医師の中には,同じような思いをしている人も少なくないはずである.医師だけでなく,私が診察する患者さんたちも,誰もが時間に追われて忙しいようで,手帳やスマホを真剣に見つつ,次の診察予約さえもなかなか決まらない.慢性蕁麻疹やアトピー性皮膚炎,乾癬などの慢性疾患は,ストレスや疲労によって症状が悪化することが十分に考えられ,そうした患者さんの中には,休息をしっかりとって気分転換するだけでも症状の改善につながる人が少なからずいることと思う.自分の幼少時には,1日や1年間がとても長かった.毎日,たくさんの新しい刺激を受けていた.大人になって,1年があっという間に漫然と過ぎてしまうのは,日々のトキメキがなくなっているからだと,テレビ番組で見たことがある.患者さんも,またわれわれ医師も,一度,せわしない日常生活から立ち止まってみれば,心に余裕が生まれ,ビル群ではなく草木をぼんやり眺めるだけでも何か新しい発見ができるはずである.自らがこれを継続的に実践できるかは,はなはだ心もとないが,ぜひともそうありたいと願っている.
Copyright © 2019, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.