--------------------
あとがき
石河 晃
pp.736
発行日 2021年8月1日
Published Date 2021/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412206459
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
先日,患者に治療方針を選択してもらう際に,行動経済学を応用するとある程度誘導できるという講演があり,大変興味深く拝聴した.一般的には患者の自由な選択が保証されるべきであり,医師が勝手に方針を決定してはならないという考えが強く刷り込まれているが,患者の不利益を回避するためにも医師は上手に患者を誘導し,自主的で最善な決定につなげることも大変重要である.人間の行動は必ずしも合理的ではなく,感情によって選択が変わるものであり,これを研究する学問が行動経済学である.A:無条件で10万円もらえる,B:じゃんけんをして勝ったら20万円もらえるが,負けたらお金はもらえない,の2択の質問では多くの人がAを選択する.次にA:じゃんけんをして勝ったらさらに10万円もらえるが負けたら手元の10万円は没収,B:じゃんけんは行わない,の2択を質問した場合,多くの人はBを選択する.これは利益が手に入らないこと,あるいは損失を回避することを優先する人間の感情によるもので【プロスペクト理論(損失回避性)】と言うそうだ.
なるほど!他にもこれを何かに使えないかな?と思いを巡らせてみた.そういえば近年,若手医師の論文執筆数が少ないように思える.専門医試験受験には最低3本の論文執筆が求められているが,「論文を6本執筆すれば,専門医取得後,次回の資格更新単位にボーナスとして6単位付与します.論文が5本以下の場合,次回の更新単位には反映できません」などとしたら,損失回避に走って6本書くようになるかな? いや,これでは専門医を取った後,次の論文を書くモティベーションが下がってしまう.
Copyright © 2021, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.