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最近,デルマドロームについて一般誌のインタビューを受ける機会があり,事前にいただいた質問の中に「デルマドロームの概念はいつ頃からあるのでしょうか」というものがありました.そこでまず,いくつか欧米の教科書を紐解いてみましたが,意外にも索引にdermadromeの語は見当たりませんでした.PubMedでdermadromeを検索してみましたところ20件の文献がヒットしましたが,そのうち14件が日本人著者の論文で,日本以外の論文は1960年代に書かれたものであることに驚きました.日本語の文献を調べてみると北村啓二郎先生の総説がみつかり,それによるとデルマドロームという用語を初めて学界に導入したのはWienerで,1959年に提唱されたようです(The Medical Clinics of North America 43:689-704, 1959).「内臓病変の存在を示す皮膚の症候」がデルマドロームの意味するところです.しかしながら,全身性疾患の皮膚症状であったり,直接関係しない内臓疾患に合併しやすい皮膚疾患であったり,原因が内臓疾患と共通である皮膚疾患であったり,とその内容は多彩で定義に曖昧さがあり,欧米では定着しなかったようです.三橋喜比古先生は某誌への投稿論文で,欧米では定着せず,日本で定着した理由は,曖昧さを許容したことにあるのではないかと指摘し,「意外にも」「ちょっとびっくり」という概念が含まれているものがデルマドロームではないか,と述べられています.たしかに,幼児期の葉状白斑は結節性硬化症のデルマドロームと言えるかもしれませんが,顔面の多発性血管線維腫はあまりに直接的に結節性硬化症を想起させるのでデルマドロームとあえて言う先生は少ないと思います.三橋先生の「意外性」は,言い換えると「忘れてはならない」ということだろうと思います.すなわち「潜在する内臓病変を見抜くために皮膚科医が忘れてはならない皮膚の徴候」を多様なパターンを容認してまとめたものがデルマドロームであるように思いました.医学書院の『標準皮膚科学』では1983年の第1版から全身障害と皮膚病変としてデルマドロームを取り上げ,井上勝平先生が執筆されています.第8版からは章として扱い,成澤寛先生が執筆を受け継がれています.欧米で生まれたデルマドロームの概念は日本の教科書の中で醸成されてきたと言えるかもしれません.一般誌記者の質問をきっかけに勉強した皮膚科雑学を共有させていただきました.
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