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あとがき
塩原 哲夫
pp.932
発行日 2012年10月1日
Published Date 2012/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412103452
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年取って感動することがなくなったと嘆く人は少なくない.確かに風景や芸術に触れての感動は,若い頃に比べて減ってきたかもしれない.それは,若いときの感動が未経験のものを体験したという,ある意味単純なものだからである.それに対し,年を経ての感動は今までの人生経験の積み重ねの上に成り立つもので,これまで見過ごしてきた何気ないもののなかに見つけることが多い.自分がこんな小さな出来事に感動するようになるとは,若い頃は夢想だにしなかった.例えば,いつも教わる立場だった若い教室員が研修医などを立派に指導している姿を見たときの感動は,年取ったからこそ味わえる感動だと思っている.
日本画家の千住博氏によると,彼が画を描くのは自分の感動や悦びを,見る人と共有したいという願いからなのだという.確かに,音楽にしろ絵画にしろ,素晴らしい芸術作品に触れたとき,人は身動きできなくなるほどの感動を味わう.それは恐らくその作品の制作者の感動が,受け手に正しく伝わった瞬間なのであろう.逆に言えば,多くの人々に共有されるような感動を与えられる作品こそが,時代を超えて生き続ける芸術なのであろう.
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