--------------------
あとがき
塩原 哲夫
pp.196
発行日 2007年2月1日
Published Date 2007/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412101602
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
プロ野球選手の米大リーグへの流出が止まらない.マスコミは,彼らに魅力的な環境を提供できない日本のプロ野球界を非難する.しかし,歴史を振り返ってみれば,良い環境は必ずしも人を育てないことがわかる.創成期のプロ野球機構は大学野球にも人気で水を開けられ,お世辞にも魅力的な組織とは言い難かった.しかしそんな貧弱な組織に参入した人々は,大リーグに負けない組織にしようとする情熱にあふれ,その後の隆盛を築いたのである.
何故こんな話題で書き始めたかというと,昨今の研修医の動向にも同じ傾向が感じられるからである.彼らはホームページなどの情報をもとに,研修先として条件の良いところを検討して決めているらしい.結果として,多くの研修医は大都市の有名病院,大学に流れることになる.地方の大学はこのような人材の流出を止めることができず,プロ野球界同様の悲哀をかこつことになる.このような人材の流出は地方の医療を荒廃させ,長年にわたり維持されてきた日本の医療システムの多様性の喪失につながる,と考えられている.人材が集中する側にとっても,この状況は必ずしも喜んでばかりはいられない.条件が良いからとか,人気があるからといった理由で集まってくるような人材は,自らの組織に要求するばかりで,決してその組織を自分で良くしていこうという努力はしないからである.そういう人材が組織の多数を占めるようになれば,早晩その組織は弱体化していく.与えられ過ぎた人は,決して与える人にはなれない.ソニーが大学生の人気企業のトップになった時,現在の姿は予想されたのである.
Copyright © 2007, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.