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あとがき
塩原 哲夫
pp.438
発行日 2015年5月1日
Published Date 2015/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412204467
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褒めてあげないと人は育たないといわれる.それを反映するように,昨今の学会や雑誌では表彰流行りである.演奏会などでも,最後に個々の演奏者を立たせて観客の賞賛を浴びさせる光景をよく見かけるようになった.しかし,褒められて育った人は,褒められないと意欲を保てないという弊害に陥る.
筆者は若いころ,対照的な2つの基礎の研究室で大学院生活を送った.1つは,比較的ゆるい環境で,そこにいる先輩は何をやっても褒めてくれる人だった.お蔭で大して勉強しなくても程々の評価を受け,自惚れ状態になっていった.しかし,次に行った研究室では,手厳しく批判する先輩がいて,当然のことながら筆者の研究は酷評された.しかも年輩の実験補助の人からは研究室での作法を細々と注意された.あろうことか,その手厳しい先輩は筆者に,そんなつまらない研究は止めて,自分の研究を手伝えと宣うたのである.もちろん唯唯諾諾と受け入れるはずもなく,“先輩の仕事もそんなに面白いとは思えません”と反論し,その“つまらない”研究を続けた.しかし後年,その時代に多くの厳しい批判を受けたことが,研究を続けていくうえでどれほど役立ったかわからないと思うようになった.以来,褒められたことは忘れ,酷評されたことをよく覚えるようにした.それは自分の自惚れを戒め,甘さ,至らなさを克服するのに大いに役立つからである.
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