--------------------
あとがき
塩原 哲夫
pp.280
発行日 2012年3月1日
Published Date 2012/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412103212
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
「確かにこの国は貧しいけれど,人々は皆清潔だし明るく良く笑う.この国にわれわれの文化をもたらし教育することで,はたしてこの国の人々は現在の明るさを持ち続けられるだろうか? 彼らは本当に幸せになるだろうか? 私はその点に良心の呵責を感じざるを得ない.」これはわが国を開国させたペリー提督の日記の一部である.ここには,現代の日本から見たら別世界のような人々の日々の営みがある.
それから150年間,国民の努力は主に物質的に西欧諸国に負けない国を作ることに向けられ,人々の生活は見違えるほど豊かになった.しかし,その結果得られた社会は決して夢見たようなパラダイスではなかった.人々は絶えず不満を言い,これは国がすべきと声高に要求する.人のために何かをしたい,という奉仕の精神を持たない人がいかに増えたことか.現代の自由主義経済における成功は,いかに人々の欲望を喚起させられるか,にかかっている.本来必要でないものを,買わねばならないもののように思い込ませた者が勝者となる.一方でエコの重要性を訴えるが,実はそのような欲望を起こさせないことのほうが,はるかにエコなのに.これでは麻薬を売って儲けたお金を,慈善事業に使うのと同じではあるまいか.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.