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あとがき
塩原 哲夫
pp.468
発行日 2013年5月1日
Published Date 2013/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412103685
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臨終の床で,「おもしろき こともなき世を おもしろく」と上の句を詠んだのは幕末の風雲児高杉晋作である.その場に居合わせて,「すみなすものは 心なりけり」と下の句を続けたのは,野村望東尼と伝えられる.この世を面白くするもしないも,心次第という訳である.
「面白く」と言えば,筆者には若き日の苦い記憶がある.今となっては正確に思い出せないが,それは多分入局して数年経った頃のことだったと思う.「陰囊に発生した基底細胞癌」を経験し,上の先生から症例報告をするようにという指示を受けたのである.その頃,生意気なだけで,お世辞にも勤勉な皮膚科医とは言い難かった筆者は,思わず「珍しい部位にできたというだけで,そんなに面白いですか」と口走ってしまった.そのとき,先輩の先生方の顔に浮かんだ困惑の表情は,30年以上経った今でもはっきりと思い出すことができる.こんな不埒な発言にもかかわらず,心優しき先輩の先生方の暖かい指導のお蔭で何とか学会発表まではこぎつけたが,論文は永遠に書かれることはなかった.
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