鏡下囁語
天国から届いた万年筆
加我 君孝
1
1独立行政法人国立病院機構東京医療センター・感覚器センター
pp.155-157
発行日 2010年2月20日
Published Date 2010/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411101554
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
万年筆で書かれた文字や文章には人柄がよく出る。私も万年筆をしばしば使う。昨年,松本清張生誕100年記念の特別展が開催された九州小倉の松本清張記念文学館で見た原稿は,太めのモンブランのペンで書かれており,まるで作家がそこにいるかのようであった。モンブランは頑丈なので原稿の執筆にも耐え得る。私は署名用には米国留学時代の先生でジェファーソン医科大学の学長で医学教育が専門のゴネラ教授から東京大学の教授就任のお祝いにいただいたWatermanを好んで使い,手紙や葉書にはモンブランのペン先の太さが異なる3種類を使用している。これらはいずれも約20年前から愛用しているものであるが,3年前から,パイロットのノック式の万年筆も使うようになった。万年筆のキャップをはめることが面倒な人にはぴったりである。この万年筆はA製薬会社の幹部社員で,35年来の親しいSさんから亡くなって49日が過ぎて本人の名の小包郵便で届いたものである。私は『天国から届いた万年筆』と呼ぶことにしている。
私が昭和46(1971)年に卒業と同時に東京大学の耳鼻咽喉科学教室に入局して研修医として勉強を始めた頃は各製薬会社のMR氏が営業活動で自由に病院の医師勤務室や医局に出入りしていた。当時はMRではなくプロパーと呼ばれていた。そのなかでSさんは入社して数年の頃であった。学生のときにはまったく存在も知らなかった世界であったがSさんたちMRは研修医の私共の頭のなかに,薬の名を刷りこむべく繰り返しアプローチしていた。彼らの仕事の成果として私の頭のなかには熱心だった3社の抗生物質名が今でも残っている。
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.