連載 りれー随筆・462
天国の母へ
谷川 里奈
pp.82-83
発行日 2025年2月25日
Published Date 2025/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.134781680790010082
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私の故郷は市内に掘割が張り巡らされ,四季折々の詩情を刻む水郷として有名な場所です。そこで生まれた私は1歳のとき,母を亡くしました。その理由を知るのは何十年も後のことになります。母のことになると周りの大人たちはみな,口を閉ざしていたので,聞いたら駄目だと思い,詳しいことは聞けませんでした。唯一,祖母だけは「あんたはこんなところがお母さんに似とるとよ」と言い続けてくれました。
上京する前に,思い切って祖母に聞いてみたところ「産後のうつだったと思う」と教えてくれました。当時は「産後うつ」の言葉が浸透しておらず,体調が悪かった母を祖父がいろいろな病院に連れて行ったそうです。しかし,治療の甲斐なく母は自死を選びました。私は3人兄弟の末っ子でしたので,「私さえ生まれてこなければ……」と今でも自責の念に苛まれます。何度も母のそばに行きたいと思いましたが,祖父母が温かく育ててくれ,友人たちのお母さんたちにも助けてもらって成長しました。
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