社会の窓
「酔つぱらい天国」追放
阿部 幸男
1
1読売新聞社婦人部
pp.39-40
発行日 1958年12月10日
Published Date 1958/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201777
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「酒の上のことで」といえば,大抵の暴言や無礼な行動が見逃されてきたのがこの国の習わしであつた.酔つていたのだから仕方がないと大目にみたり,みられたりでホームの上で小間物をひろげたり,くだをまいて歩いてもとがめられない.それどころか,酔つた上での犯罪まで,軽い判決ですまされがちだつた.ところが,9月30日に開かれた東京高検管内の公判検事合同で,酔つぱらい犯罪に厳罰を以つてのぞむ申合わせが行われ,"酔つぱらい天国"という批判のあつた社会的風潮に対する警鐘が鳴らされたことになつた.
刑法第39条にこういう規定がある.「心神喪失者の行為はこれを罰せず,心神こう(耗)弱者の行為はその刑を軽減す」つまり,酔つて何もわからなかつた,ということになると,この刑の適用を受けて,精神病者や気違い並に無罪や軽い刑ですむことが多かつたのである.しかし,精神医学者に云わせれば「完全な泥酔状態で意識が全くなくなつているのに,人を殺傷する力はなくなつているはずだ」という意見が強い.「昨夜は酔つていたので何をしたか全然覚えていない」といういいわけは成立たない.いくら酔つていても,犯行当時はちやんと意識していたのを,一晩眠つたために記憶が失われている場合が大部分だというのである.だから,精神医学者などの中ではとつくに酔つぱらいの犯罪をもつと厳罰にせよという声が高かつた.酔つた上での犯罪当時,心神喪失.
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