声
若草色の万年筆
市井 ノリ子
1
1大阪府泉大津保健所
pp.573
発行日 1974年11月10日
Published Date 1974/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205532
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雪深い北国の結核療養所に勤めていた頃のこと,まだおさげ髪の17,18の小娘であった私。コロコロと肥り,頬が真赤で,しもやけの手をさすりながら,病棟を走り回っていた。男の子か女の子かわからないという先輩看護婦の声をよそに,ナイチンゲール精神よろしく,病む者への限りない愛に酔うかのように仕事は楽しかった。
北国の早い冬は11月ともなればもう雪が降る。2m近く積るこのへんでは,家の軒にはかやで作った雪囲いが張られる。この療養所でも,元傷夷軍人療養所の古い病舎の回りは,一面に雪囲いがされ,病舎の中はうす暗く,昼間も電灯をつけることが多かった。こういう冬の季節は非番のときでも,外出はおっくうになり,きまって文学書を読みふけった。それも,堀辰雄,立原道造,倉田百三,どれも結核患者が病床にありながら,その病気をテーマに書かれた文学書が多かった。そして読み終わったら,感想を長々と書いた。又詩や短歌もひねり,まさに文学少女になりきり,そういう生活に陶酔していた。
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