鏡下咡語
科学研究の落とし穴―脚気の研究にまつわる物語
青柳 優
1
1山形大学医学部情報構造統御学講座耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野
pp.945-948
発行日 2008年12月20日
Published Date 2008/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411101359
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今年のNHK大河ドラマは『篤姫』である。薩摩藩主島津斉彬の養女で,第13代将軍徳川家定の継室であり,第14代将軍徳川家茂の継母である天璋院篤姫が主人公の幕末ドラマである。NHK大河ドラマの常であるが,篤姫の故郷,鹿児島への観光熱は高まっているに違いない。しかし,私は『家定』,『家茂』という名を聞くと,2人の死因となった脚気衝心とビタミンB1の発見に関連する脚気の研究にまつわる物語に思いを巡らせないではいられない。
家定,家茂ともに甘党だったようである。一説によると家定はカステラなどの菓子作りが趣味であったという。よく煮豆やふかし芋などを作り家臣たちに振舞ったりしており,松平春嶽などは陰で『イモ公方』と呼んでいた。また,家茂は30本もの虫歯があったという。ビタミンB1の需要量は,食事中のエネルギー量に比例する。糖質の摂取量が過剰であると需要量は増大するので,相対的にビタミンB1欠乏症に陥ることもある。したがって,2人とも脚気に罹患する素地は十分にあったわけである。
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