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以前のあとがき(80巻10号)で銚子の病院が閉鎖するとしてテレビで話題になっていることを書きましたが,3か月後の今回のあとがきを書く時期に,そのなかで指摘した問題が現実のものとなってしまいました。都立墨東病院産婦人科と東京の名だたる大学や大病院を巻き込んだ事件が今週の大ニュースとなり,厚生労働大臣と都知事のやりとりも話題になっています。これまで都会と地方の医師の偏在が問題だとする論調があり,今後都市部の研修医の定員を減らすという意見も出ていましたが,都会でも似た状況があることを示したことになります。地方の医師不足は医学部入学者の多くが都市部受験校出身だからという乱暴な意見もありますが,それは今に始まったことではなく,かつてはむしろ卒後その地域の医局に残った人が多かったはずです。臨床研修制度の余波についてはこれまでも述べてきましたが,この制度前後で医師数にあまり変化のない科,増加した科,減少した科という分類のなかで耳鼻咽喉科は減少した科に入り,残念ながら最も減少した科でした。どこに原因があるか検証する必要がありますが,唯みな漠然とわかっているのではないでしょうか。産婦人科,小児科の不足が叫ばれるなか,これらの科の待遇改善も取りざたされています。
一方,耳鼻咽喉科勤務医の不足については一般メディアであまり話題になりませんし,声高に言うべきことか迷うところです。メディアも詳細な事情を知らずに勝手なことをいう人気キャスターに踊らされている感があります。
臨床研修制度を擁護する意見としては,まず研修医自身が大学医局のしばりがなく自由にマッチングで病院を選べること,給与は大学のスタッフ並みかそれ以上の施設もあること,確かに多くの科で充実した研修が受けられることなどがあります。しかし,彼ら自身は以前の制度のことを知らないので,何が問題なのか理解できないともいえます。この制度も徐々に改変せざるをえず,各施設で内容を変え始めているのも事実です。ここしばらくは大学の各教室を一度も経ないで病院を転々とする若い医師が増えることも予想されますが,実は大学の教室(医局)生活も捨てたものではないと言いたい心境です。
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