講座 臨床から公衆衛生へ
脚気
橋詰 直孝
1
1東邦大学第2内科
pp.62-63
発行日 1980年1月15日
Published Date 1980/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206014
- 有料閲覧
- 文献概要
はじめに■
脚気はかなり古くから知られている疾患で,特にわが国では,徳川時代に白米を食べるようになった江戸で流行し,"江戸わずらい"と呼ばれていた.明治になっても脚気の原因がビタミンB1(以下,B1と略す)欠乏にあると結論されず,感染説,中毒説などが出回って,脚気は国民病として恐れられていた.大正12年には脚気で約27,000人の死者を出している.しかし,その間に多くの研究により脚気はB1欠乏が主因であることが結論され,脚気で死亡する者は激減し,食糧事情が良くなった今日では,脚気発症すら稀なことであると思われていた.
ところが昭和49年,第15回日本神経学会総会で,若年男子を中心に下肢浮腫を伴う多発性神経炎の数例の報告があった.その後も各地から同様な症例の報告があり,初めは脚気とは断定されず,なにか新しい疾患単位ではないかと考えられ,かつて議論されたように感染説や中毒説も出現した.しかし,これらはすべて脚気であることが後に判明し,過去の疾患と考えられていた脚気が再び注目されるに至った.
Copyright © 1980, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.