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はじめに
本邦においては,昭和58年に体外受精・胚移植(in vitro fertilization─embryo transfer:以下,IVF─ET)が臨床導入され四半世紀が経過し,以来生殖補助医療(assisted reproductive technology:以下,ART)による累積出生児数は135,757名に到達した.最近の平成16年のARTを用いた「治療法別出生児数および累積出生児数の報告」1)によると,IVF─ET,卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:以下,ICSI)─ET,および凍結胚移植により,各々6,709名,5,921名,5,538名,合計で18,168名が出生し,同年の出生児65名に1名がARTにより誕生するに至っている.
さらに,国内でIVF─ET導入初期のころに誕生した女性が,最近自然妊娠により健康な児を出産したとの報道もあり,ARTという治療法は本邦の不妊症診療の場において着実に浸透してきている.
このようなARTの日進月歩の治療技術の向上は,それ以外では妊娠できる可能性がない不妊症患者の治療に大いに貢献してきた.しかしながらその反面,これらの治療の成果と表裏一体の関係として,多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などの合併症の発生率上昇という問題が生じ,特に前者は社会問題化している.
そこでARTによる多胎妊娠発生率を低下させることだけを目的とするならば,移植胚数を制限して余剰の胚を凍結保存するという単純な戦略が有効であることは明らかである.しかしながら不妊症に悩むカップルは,妊娠率を低下されてまで多胎妊娠を避けてほしいとは現実的に希望しない.特に妊娠成功が低率であることが明らかな高年齢女性においては,移植胚数の制限による妊娠率低下の可能性に配慮すべきである.すなわちARTによる多胎妊娠発生予防策を講じる場合,ART治療の質的低下,換言すれば妊娠率低下を招くことは決して許容されない.
そこで本稿では,「ARTによる多胎妊娠の防止法」というテーマに対し,妊娠率を低下させず,多胎妊娠の発生率を最小にする診療戦略を考案してきたわれわれの研究成果を中心に解説する.
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