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はじめに
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : 以下,PCOS)は排卵障害を原因とする月経異常,不妊症,男性化,肥満などの特有の臨床状を呈する症候群で,卵巣の形態変化,内分泌異常を主徴とする.PCOSはStein─Leventhal症候群とも称されるが,その由来はSteinとLeventhal 1)が排卵障害,多毛,肥満,両側の卵巣腫大を伴う症候群を記載し,この症候群の治療に開腹による卵巣楔状切除術(ovarian wedge resection : 以下,OWR)1)が有効であることを示したことにある.PCOS患者の臨床像には人種差があり,欧米では肥満や多毛から診断に至るケースが多い点と異なり,本邦においては月経異常,排卵障害や挙児希望が主訴で,アンドロゲンの値は正常範囲内であることから,多毛,肥満を伴う典型例はさほど多くない.PCOSの本態はさまざまで単一の疾患群ではないが,その診断に際しては表1に示す日本産科婦人科学会の生殖・内分泌委員会によるPCOSの診断基準2)が用いられ,このうち月経異常,LHの基礎分泌値高値でFSHは正常,超音波断層検査で多数の卵胞の嚢胞状変化を認める,が必須3項目と定められている.
挙児希望のあるPCOS患者に対しては排卵誘発法が必要であるが,現在用いられる方法としては薬剤を用いる方法と,卵巣に対する外科的治療に分類できる(表2).前者にはクエン酸クロミフェン(clomiphene citrate : 以下,CC)やゴナドトロピン製剤(gonadotropin : 以下,Gn)などの排卵誘発薬が従来から使用されてきたが,最近になり耐糖能異常の正常化をはかる塩酸メトホルミンの処方が排卵誘発にも有効と報告され注目を集めている3).後者としてはSteinら1)がOWRの有用性を報告して以来,1980年代初頭までPCOSに対する不妊治療としてOWRが主流であった.しかしその侵襲性や術後骨盤内癒着などの副作用の観点4)から,その後は次第に排卵誘発薬による治療が主流となった.一方,1980年代後半には腹腔鏡の普及と医療用レーザーの開発,さらにGn療法による多胎妊娠とOHSSの高い発生率が社会問題として取り上げられた反省から,経腹法による腹腔鏡下卵巣焼灼術(laparoscopic ovarian drilling : 以下,LOD)5)が開発され普及した.さらに最近,より侵襲性が低い手術治療法として経腟的アプローチによる腹腔鏡(transvaginal hydrolaparoscopy : 以下THL)下に行う卵巣焼灼術(transvaginal hydrolaparoscopic ovarian drilling : 以下,THLOD)6)が開発され,われわれも本法を積極的に導入してきた7)ので紹介する.
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