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はじめに
子宮内膜症は生殖年齢の女性に好発し,その不妊症発症への影響の有無が論じられてきた.子宮内膜症が不妊症にかかわる可能性のある病態としては,(1)骨盤内癒着,特に卵管采周囲の癒着による卵子のpick up障害,(2)卵胞内環境の変化による卵子発育への影響,(3)腹水中に存在する炎症性サイトカインによる配偶子や胚に対する悪影響,などが想定されている.
しかしながら,子宮内膜症が妊孕性に与える影響には不明な点が多い.子宮内膜症初期の腹膜病変でも腹腔鏡下焼灼などの処理が妊孕性の改善につながる症例を経験する半面,チョコレート嚢胞のように明らかな子宮内膜症が存在する進行例においても,自然妊娠の成立は稀でない.このように,子宮内膜症の重症度と不妊治療成績の間に一定の法則が存在しないことが,頻度の高い疾患でありながら子宮内膜症を合併する不妊症女性に対する治療法にエビデンスを構築することが困難な原因となっている.
一方で体外受精・胚移植(in vitro fertilization─embryo transfer : IVF─ET)や重症男性不妊症に対する卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)などの生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)は,step upの最終的な位置づけではあるが不妊症カップルに対する標準的な治療法となり,瞬く間に多数の施設で実施されるに至った.このような状況下において,不妊症治療機関のなかで腹腔鏡まで施行できる施設は限定されている.したがって,例えば初期の子宮内膜症の存在が明白にされないまま,ARTを含め不妊治療が行われている可能性も十分ある.しかるに,子宮内膜症と不妊症の関係は施設や医師により一定の認識に至らず,今後どのような共通の尺度を用いて対応を進めるべきかという課題がある.
本稿では最近の文献報告に基づき,子宮内膜症を有する不妊女性に対するART療法の現状について述べる.
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