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あとがき
瀬戸 泰之
pp.128
発行日 2023年1月20日
Published Date 2023/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407214021
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過ぎたるは猶及ばざるが如し
免疫は実に面白い(失礼な言い回し,ご容赦を).これまで薬物療法においては,癌を叩くためには癌細胞を死滅させること(殺細胞性)が重要と考えられてきた.本特集の免疫チェックポイント阻害薬はまったく異なる発想である.もともと個体に備わっていた能力を引き出すために,その能力(癌細胞を排除する免疫力)を抑制していたものを抑制しようというのである.まさに,マイナス×マイナスはプラスなのである.癌細胞の戦略として,その周囲に制御性T細胞に代表される免疫抑制環境が形成されるとのことである.それが優位になると癌細胞の成長が速まるということらしい.個体に発生した異物である癌細胞には発生の早い段階から免疫が作用し,その発育を抑えるが,成長の段階で前述の免疫抑制環境がそれを抑えこむのである.もともと体内に発生した細胞への免疫細胞なので,時に癌細胞以外の正常細胞にも攻撃を加えてしまう.それがirAE(immune-related adverse effect)であり,従来の抗癌剤とはまったく異なる有害事象が起こりうる.その臓器も多岐にわたり,開始前には予想もつかないのが現状であろう.そして,時に致死的レベルの事象も起こりえるのであり,まさに「過ぎたるは猶及ばざるが如し」といったところと感じている.ぜひ本特集を熟読し,早期にその兆しを捉え,重篤な事態を回避することに努めていただきたい.
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