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あとがき
瀬戸 泰之
pp.888
発行日 2022年7月20日
Published Date 2022/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407213784
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2022年4月1日,Science誌上にて,ついにヒト遺伝子の全解読が終了したとの報告がなされた(Nurk K, et al:The complete sequence of a human genome. Science 376:44-53, 2022).4月1日だけにエイプリルフールかとも思われたが,19年の歳月を要したとのこと,実際プレスリリースは前日に行われたことからしても真実であろう.たかだか数μmの染色体1本の中に正しく縦横無尽に重なっているDNAを伸ばすと,何と2 mになり,その中には30億塩基対の遺伝情報があるという.想像を超えた話ではあるし,機能の解明はこれからの最重要課題になると思われる.
さて,地球上に生命の起源である真核生物が誕生したのが,地球の歴史を1年に例えると8月下旬という.その後,本当に本当に長い時間,あまたの細胞分裂を経てヒトが誕生したのは12月31日午後8時になるという.DNAの構造は有史以来不変であり,生命たるものすべて共通のDNAを持っているのである.細胞分裂に伴う遺伝子変化がヒトまでたどり着いたのである.この変化は,合目的的なものではなく,あくまでも中立であり,その変化のなかで環境に適合した種が残っていくという木村資生先生の「分子進化の中立説」は,科学的思考の成せる業と筆者は理解している.
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