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今月号の特集は「脾臓をめぐる最近のトピックス」である.脾臓が外科系雑誌の特集に取り上げられることは少なく,一般人にはこの臓器の存在すら知らない人もいるように,地味な臓器といえよう.脾臓は原発する疾患が少なく,他臓器疾患あるいは血液疾患の治療のために手術対象となる場合が多い.術式としても基本的には摘出か温存かの2通りであり,肝臓や膵臓の専門家はいても,脾臓を専門的に治療の対象とする外科医はいない.今月号の執筆者も,脾臓を基礎的・臨床的研究の対象としている方か,または専門とする手術の付随的な対象としている方かで,脾臓の専門家と呼ばれる方たちではないと思う.筆者も数年前に日本消化器外科学会の教育集会で「脾臓摘出の適応と手技」というセッションを担当させていただいたが,講師として甚だ不適切な小生が選ばれたのも,人選が難しかったための苦肉の策であろうと思われた.浅学なために,また当時は脾臓に関する本特集のような網羅的でアップデートな参考書はなく,その講演の準備には多大な時間と労力を費やしたのを思い出す.
そのときにも感じたことであるが,脾臓は地味な反面,奥の深い臓器であり,未解決の問題が沢山残されている.本特集でも,胃癌,膵癌,肝硬変合併肝癌,門脈圧亢進症,生体肝移植,血液疾患,外傷,など多岐にわたる疾患に関連して,様々なトピックスが提示され,脾摘あるいは脾温存の意義・功罪が議論されている.しかし,現時点での脾臓の意義は米国のスローガンと同様,今後も“change”する可能性がある.例えば生体肝移植の項で述べられているように,以前はABO血液型不適合移植における免疫抑制法の一環として必須と考えられた脾摘が,抗CD20モノクローナル抗体の出現によって不要になる可能性も示唆されつつある.脾臓のように派手さはなくても奥の深い臓器は,肝臓のように派手で注目を浴びることの多い臓器とは違った意味で研究対象として興味深い.それと同様に,派手でアピール力のある人には常に多くの注目が集まるが,派手さはなくても粛々と自分なりの仕事をしている奥の深い人間は,つきあうほどに興味をそそられる.
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