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今月号では,消化器外科における手術術式の歴史的変遷・進歩が疾患別・術式別に解説されている.特にエポックとなった術式や手技などを振り返りながら,現在の標準術式が確立されるまでの過程,いまだ結論の出ていない術式に関するcontroversy,さらに今後の展望と提言などが述べられており,まさに消化器手術の「温故知新」となっている.「温故知新」とは言うまでもなく論語の為政篇にある「温故而知新,可以為師矣」から出た言葉である.現在では前半の「温故知新」だけが独立して,古いものにヒントを得て新しいものを生み出す,という意味で使われている.幾多の論語注釈書にも述べられているように,「温」の意味は重要であり,過去の歴史,古典を煮詰まって固まったスープにたとえて,それを温めなおして飲むように吟味し,現代に生かす新しい意味を知る,と解釈される.古典や文献の検索もじっくり温めるように熟読しなければ,新しい発想には結びつかないという戒めにつながっている.
小生の恩師である故 青木春夫先生(藤田保健衛生大学名誉教授)は,「本質的に重要な研究テーマは歴史を超えて不変であるから,古いテーマでも一定の周期で起こる技術革新や新概念の登場によってまた最先端のテーマに生まれ変わる.だから研究の継続性が大事だ」と語っていた.「温故知新」を具現化した研究態度を示して,論語後半の「可以為師矣」(以て師と為るべし)をご自身に重ねていたことであろう.また,やはり恩師である阿部令彦先生(慶應義塾大学名誉教授)の退任記念誌は,拙著論文を含む,先生が指導をされた学位論文を集めて編纂したものであり,そのタイトルは「故きを温め,新しきを知るために」であった.
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