Japanese
English
総説
筋萎縮性側索硬化症と神経栄養因子—神経変性疾患の新しい治療法
Therapeutic Potentials of Neurotrophic Factors for Neurodegenerative Disorders
岡澤 均
1
Hitoshi Okazawa
1
1東京大学医学部神経内科
1Department of Neurology, Faculty of Medicine, University of Tokyo
キーワード:
neurotrophic factors
,
ALS
,
neuronal cell death
,
therapeutic application
Keyword:
neurotrophic factors
,
ALS
,
neuronal cell death
,
therapeutic application
pp.795-802
発行日 1996年9月1日
Published Date 1996/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406900995
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はじめに
筋萎縮性側索硬化症(ALS)をはじめとする神経変性疾患は緩徐進行性の神経細胞死が共通した病理学的特徴であり,これらの疾患に対して細胞死を抑制するという形での治療法は現在まで確立されていない。本稿で概説する神経栄養因子は言うなれば非特異的な神経細胞生存維持効果をもち,現時点では神経細胞死を直接抑制する因子としてのその治療上の可能性が注目されている。
近年遺伝性変性疾患を主体にその神経細胞死が種々の遺伝子異常に由来することが明らかになってきた。将来的には遺伝子治療という形でこれらの遺伝子異常の知識が疾患治療にフィードバックされるであろうが,そのためには遺伝子の異常をin vivoの神経系において補正するという操作が必要である。さらに,遺伝学的に同定された原因遺伝子の結果は,かなり多く神経変性疾患において異常な形の蛋白として発現した疾患原因遺伝子が神経細胞にダメージを与えていることを示唆している。CAG repeat病に代表されるこれらのdominantな異常を治療するためには,異常遺伝子の発現を遺伝子工学的にrevertする,もしくはsuppressすることが必要となり,酸素欠損のような遺伝子のreplacement therapy以上に技術的な工夫が要求される。したがって,疾患遺伝子の知識に基づく遺伝子治療の実現は今しばらく時間がかかると思われる。
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