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I.はじめに
頭蓋内圧亢進の病態像を解明するには,先ず正しく頭蓋内圧を測定することが必要である。しかし歴史的には,一見単純な頭蓋内圧測定が非常にむずかしいことであつた。
18世紀から19世紀にかけては,頭蓋内圧に関する興味も少なくその測定法も頭蓋骨に作られた骨窓から脳を観察してその圧迫の程度を類推したにすぎずとしても圧力を測定するまでに至らなかつた、1891年Quinke37)により腰椎穿刺が行なわれるようになつてからは,一応圧力をガラス管内の水柱圧として測定することが可能となつたが,このようなopen manometerによる測定値が果して正しい内圧を表現しているかどうかについては常に疑問が持たれて来た。即ち,open manom—eterによる測定では,髄液をガラス管内に導出し,同時に内圧を大気圧に開放することになるのでこれらの条件が内圧に変化を与える系では測定値は内圧を表現したとは言えないのである。この欠陥を克服するため種々の圧力測定法が開発された結果,1950年代に入って,性能の秀れたpressuretrasducerが開発され,頭蓋内圧をHydrostaticpressureとして測定する方法と理論が確立された、1960年代になると,半導体が圧力計に応用されるようになりそれまでのpressure transducerの小型化,高感度化が進み一層正確な圧力測定が可能となつた。しかし,通常頭蓋内圧を測定する場合,脳室穿刺による圧力測定が行なわれるため,患者の出血・感染に対する危険が高まることは避けられない。この為,近年では,脳外科医を中心として,硬膜外から頭蓋内圧を測定する方法の研究が始められている。更に,頭蓋内圧をこのような全体的なhydrostatic pressureとみる考え方の他に,局所の神経組織が圧迫,偏位されたり,張力によつて引き仲ばされるといつた種類の圧力,即ち,脳を一種のviscoelasticityを有する物質とみた場合の力学的圧力分布を測定する方法が模索され始めた。本論文では,先ず,このような,頭蓋内圧測定法の歴史的変遷を概観し,現在の頭蓋内圧測定法の持つ問題点と将来の研究方向の位置づけを行なつた。
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