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診断基準としての米国精神医学会のDSM-5(2013年)と世界保健機関のICD-11(2015年完成予定)は,それぞれの前版であるDSM-Ⅳ(1994年)とICD-10(1990年)以後の約20年にわたる研究成果を盛り込んでの改訂となります。前世紀での新規の向精神薬の登場や遺伝学をはじめとする神経科学の華々しい成果によって,21世紀早々には精神疾患の解明が飛躍的に進み,新たな診断分類と治療法とによって患者に多大な利益がもたらされるという期待がありました。しかし,大幅改訂に繋がる決定的な成果はそれほど多くはなく,結局,DSM-5では有益な議論はあったものの,さらに次の改訂に向けての“布石を置いた”というところにとどまった印象です。ところで,この10年間におけるわが国での精神保健医療福祉全般の進展に目を向けると,たとえば,自殺総合対策大綱の一部改正,医療計画制度の見直し,認知症施策推進5か年計画,精神保健福祉法の改正などがありました。確かにわが国は名だたる長寿国であり,自殺者も1998年以来年間3万人を超えていたのが,さまざまな努力でこの2年間は何とか3万人を切るところまで来ました。しかし,さまざまな改革においての期待と現実のギャップはまだまだ大きく,メンタルヘルスに関わる課題が山積しています。“超”少子“超”高齢化を抱えたわが国は,多くの人々によって指摘されているようにまだまだ“生きづらい社会”であり,“超”少子化だけからしても日本人は“絶滅危惧種”と試算されています。欧州では基礎,臨床,公衆衛生領域の研究を集約したメンタルヘルス研究を推進するためのロードマップを作成するプロジェクトROAMER(Roadmap for Mental Health Research in Europe)が展開しています。
本号の巻頭言の有波氏(統合失調症の遺伝学),展望の小川氏(認知症の緩和ケア)と太刀川氏(メディアと自殺予防)はメンタルヘルスに関わる重要な領域での課題を明示しています。わが国でも,ROAMERプロジェクトのように研究に基づいた施策を社会に提言していくことが求められていると思います。
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