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本号の特集は,うつ病に関連する認知機能(野田氏ほか),食生活(土屋氏ほか),運動(邊氏ほか),睡眠(鈴木氏ほか),レジリエンス(小澤氏ほか)など,さまざまな視点からの発症予防の可能性についてです。うつ病発症後の長期経過研究やSTEP-BD,STAR*Dのような大規模治療研究からの所見を見ても分かるように,うつ病には予後不良例や薬物治療抵抗例が多く,さらに自殺,併存症などの問題もあります。こうした背景には,診断,治療にかかわる異種性問題があり,それをどう扱うかも重要となりますが,この一端については本号“継往開来”において「神経症性うつ病」(津田氏)からの視点が述べられています。
ところで,精神疾患の一次予防と二次予防に関して,大うつ病性障害や双極性障害では,“前駆期”から,発症して治療を受けるまでに数年~10数年のタイムラグ(疾患の未治療期間)があり,これによって併存症問題も加わり発症後の機能転帰を不良にすると言われ,予防が必要となる理論的根拠の一つとなります。うつ病の二次予防では早期発見・早期介入の対象となりうる診断閾値下(亜症候性)うつ病や“軽症”うつ病が診断上重要ですが,異種性との関連で,介入研究の際には概念的整理が必要となります。たとえば,早期段階ではうつ病症状のみならずさまざまな症状を呈する可能性があり,さらに疾患転帰として回復もあれば,そのままもあれば,“大うつ病”,“双極スペクトラム”,不安障害,精神病性障害をはじめとしてさまざまの診断転帰があり,“診断閾値下”や“軽症”のうつ病はいわば多能性の混合病理を持った症候群です。さらに,早期介入における治療に関しては,抗うつ薬での治療は有効性に疑問がもたれており,認知療法を含む精神療法や本特集で取りあげたさまざまな視点をどのように駆使するかをより強力に検討する必要があります。うつ病の社会的問題を考慮すると,一次,二次予防には,疾患の“軌跡”全体を見据えた医療から社会全体のシステムまでの広範な整備が求められます。この10数年間で発展してきた精神病の予防研究で行われてきた数多くの議論や試みが,うつ病の予防研究にも役立つものと思われます。
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