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編集後記
S. I.
pp.834
発行日 2010年8月15日
Published Date 2010/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101690
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最近medicalization(医療化)やpsychiatrizationという言葉をよく耳にする。Medicalizationの意味は,従来よくわからなかった状態が医学的視点から解明され,治療的に対処されるというプロセスを指しているそうで,酔っ払いの問題行動がアルコール依存症と診断される,落ち着かない子がADHDと診断される,そして一定の治療を受けて改善するといった例がよく挙げられる。医学の進歩とともに,かつては原因不明とされたり宗教的・超自然的説明がなされた事態に対して医学的説明がなされ,多くの人が救われるようになった。医学モデルの社会的貢献は非常に大きい。
しかし最近の論調はこのような医学モデルの好ましさではなく,医学モデルの過剰な拡大とその弊害をよく耳にする。DSM診断基準の導入とともに,これまでは知らなかったような,あるいは病的と考えなかったような事態が医学モデルの俎上に上がってきた。そして,正しく診断され標準的な治療がなされれば事態は改善するとされた。しかし批判もその分強くなってきた。医学モデルでは,うつ病は薬や認知療法で治るとされるが,それは過剰モデルで,実際には職場環境の問題への対処が重要にもかかわらず,その改善作業を怠ってしまう。あるいはうつ病患者個人の問題に還元,矮小化してしまうといった批判。また,更年期症状は正常な生命過程の反映である場合もあるのに,症状を認めて薬物治療をしてしまい副作用の弊害や正常老化への心理的適応を遅らせてしまうといった批判がある。
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