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はじめに
インフルエンザは,ウイルスが気管支上皮に感染することによって数日の潜伏期間後に発症する急性の呼吸器感染症である.インフルエンザ感染による気道炎症は,インフルエンザ肺炎や二次性の細菌性肺炎の前病変であり,小児や老人に感染した場合生命を脅かす危険性がある.さらに,慢性閉塞性肺疾患の急性増悪の引き金となったり,気管支喘息の増悪因子として致死的な要因となるために臨床的に重要な病態であると考えられている.
インフルエンザウイルスはAおよびB,C型に分類され,A型インフルエンザウイルスは8本の分節RNAからなるゲノムとポリメラーゼ,核蛋白,そしてそれを包む膜タンパク質,その膜上に糖蛋白質であるヘマグルチニン(HA)とノイラミダーゼ(NA)が埋め込まれた構造をしている.インフルエンザの気管支上皮細胞への感染は,表面のHA分子が気道上皮細胞上のシアル酸に結合することによって成立する.ウイルスは,気管支上皮細胞内に進入すると細胞内において速やかに増殖し,上皮細胞障害を起こしながら隣接する気管支上皮細胞に感染を起こし拡大していく.このようなウイルス感染による上皮傷害に伴って,気道には炎症反応が出現し様々な呼吸器症状が引き起こされることになる.
近年,mitogen-activated protein kinase(MAPK)superfamily,すなわちextracellularsignal regulated kinase(Erk),p38 MAPK,c—Jun-NH 2—terminal kinase(JNK)が同定され,それぞれの生物学的機能が次第に明らかにされ,これらキナーゼが気道炎症の病態に関係していることが明らかにされてきている1).また,インフルエンザ感染における気道炎症においてもこれらキナーゼが活性化され,気道炎症の発症に重要であることが示唆されてきている.
本稿では,インフルエンザ感染に伴って生じる気道炎症のプロセスとウイルス感染によって誘導される生体応答反応との関係を中心に概説する.
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